Videonews マル激第986回 コロナウイルスの情報洪水に飲み込まれないために ゲスト大野智氏(島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授) 2020年2月29日配信開始 視聴メモ

2月29日放送開始

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短評:ゲストの話はわかりやすい。医療リテラシー概説にもなっているので、頭の整理・勉強になる。回全体を通してコロナウィルスをめぐる報道、パニック現象について、なぜこうなるのかの見通しが得られる。検査体制の整わなさと陰謀論の隆盛については、検査インフラがそもそもないという単純な問題が大きいと指摘。とりあえず見ておく価値大の番組でした。

 

 

内容まとめ 前編

ニュース概説 学校休校要請について 

学校の休校権限は教育委員会なので、首相ではない・・・など、根回しなしで萩生田と決めたのでは・・・この間予算・種苗法などどんどんすすめられていく。新型コロナはもちろん警戒すべきだが、反応が尋常ではない。

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日本医師会からの新型コロナウィルスについての情報、対策まとめ

 

インフルエンザとの比較で考えると死者数が例えば去年1月だと毎日50人。コロナは収録時に全部で9人。季節性インフルエンザよりは影響が小さいが、反応がものすごい。日本だけでなく、中国、イタリアも。

この事態への反応はどういうことかを考える。

どういう心構えでコロナウィルスを、コロナウィルス現象を見るべきか。

 

(4月4日追記  4月4日現在、日本ではダイヤモンドプリセンス号のケースも含めて死者84人 。インフルエンザは2018年で3325人、自殺者は2019年20169人、交通事故2019年3215人)

ゲスト紹介 医師でヘルスリテラシーの分野で研究を進める大野智氏。

ヘルスリテラシー:体の悩み解決、健康維持するための情報入手・理解、活用に関わるリテラシー
医療健康分野での情報リテラシー

神保:ヘルスリテラシー情報リテラシーの観点から現在の状況をみるとどうか?

大野:元来は自分に必要な情報があればよいが、現在は情報氾濫、情報が襲いかかってくる状況、個々人が必要な情報を適切に入手、取捨選択ができる状況でない。

 

死ぬたびにニュース速報、日本だと収録時で9人だが、死者がでるそのたびに速報。ものすごい驚異の印象を与える。 インフルエンザ死者数は1日数十人だからその意味ではバランスが悪い。 

なぜこのような怒涛の情報になるのかを考察する。

 

大野氏:未知の情報の効果

・人間は「未知のもの」の不安恐怖をともなった情報には感情を揺さぶられやすい。

・人間は不安ベースのときは不確かなものでも情報を取りに行く(借金で首が回らない人は怪しい儲け話に乗りやすい的な傾向)

 

詳しい議論の前に新型コロナについて(2月末時点での)情報まとめ

新型コロナは過去のコロナウィルス感染症SARS MARS)と比較すると感染の広がりはすごいが、症状の重症化の観点でいうとSARS MARSが圧倒的(致死率SARS 10パーセント MARS34パーセント)。致死率は現在通常のインフルエンザより高い(2〜3パーセント)。重症化は高齢者や糖尿病などの既往症がある場合に顕著であり、健康な人間がそれほどまでに恐れるようなものではない。致死率に関しては、感染者数の分母がおそらく少なく換算されているのでもう少し低くなる可能性もある。

ではなぜそんなに騒ぐのか? 新型ということで警戒はわかるが、各国政府の動きなどなぜこうなるか? 専門家やインテリであればパニックになる必要はないと思うようなデータだが・・・

情報発信者はどうすべきか という問いも含めて

 

(4月3日追記 今思うと感染の急激な広がりや潜伏期、無発症者による感染拡大などの問題がこの時点では十分に検討されていないのは、今から思うとやや残念。いわゆるオーバーシュートによるイタリア、スペイン、アメリカなどでの感染、死者の増大がまだなかった状態で日本でも広がりは限定的だったため、しょうがないといえばしょうがないが。

 個人的に覚えているのは、3月一周目はヨーロッパはまだのんびりしていて、二周目からイタリアでの深刻化が意識されて、空気が変わった。個人的にも、イタリア、アメリカの状況をみてはじめて真剣に恐怖を感じるようになった。ヨーロッパやアメリカの対応も含めて今思うと、武漢のケースをもっと深刻に我が事として受け止めて、早めに感染拡大、オーバーシュート、医療崩壊のメカニズムを検討・対処しておく必要があったのだと思われる。)

科学的思考を歪める心理効果

ゲスト 科学的思考を歪める心理効果が、データの認知に人を向かわせない。

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1. ウィンザー効果 誰かの体験、誰かの経験の方がデータより心に響く

例:健康食品の体験談による広告が効果が大きい

例:直接褒めるより、「誰々さんが褒めてたよ」と聞く方がインパクトが大きい 

コロナウイルスの場合:上で挙げたようなデータよりも、例えば武漢の警告を発した医師のインパクトが大きくなる。データよりも、政府がごまかしているらしいといったSNSの方がむしろ信憑性があるように思ってしまう。

2. 権威への服従効果

・「あの人が言っているなら聞こう」という権威の言葉

コロナウイルスの場合:ワイドショーでの「・・・大学教授」 

番組の場合はお笑い芸人がウィンザー効果を担って、大学教授が権威のお墨付きを与える。番組全体がそれなりの信憑性をもって受け止められる。

3. バンドワゴン、同調現象   勝ち馬にのろうとする

・「9割の人が満足しています」→「ならやろう」 

・「勝ち馬に乗ろう、のり遅れるな」傾向   トイレットペーパー・・・

4. シャルバンティエ効果 しじみ200個分etc

例:「しじみ200個分の・・・」「レモン・・・個分の・・・」→ インパクトが大きい

 鉄1kgと綿1kgと聞くと鉄の方が重そう。インパクトを強める心理効果

5. フレーミング 数字設定の仕方で大きい小さいの印象が変わる。

例:タウリン1000mg配合(タウリン1g)

コロナウィルスの場合

・感染者数だけをみせるインパクト(この一ヶ月でこれだけの感染者が!) 致死率だけだとインパクト弱い。

・致死率もSARSなどとの比較ではなく、インフルエンザと比較した方がインパク

 

コロナの場合は1. 2のセットと5のフレーミングに注意して情報摂取すべし。

 

健康・医療情報の分類(コロナ議論とは別の一般的議論)

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健康や医療については様々な情報があるが、情報がどれくらい検証されたものなのかは、かなりまちまちである。信頼性の低いものから順に検討。

1. 経験談・権威者の意見 信頼性低い。比較検証がないので、個人的偏りや偶然に左右される情報。

グルコサミンが効いた 飲まなくても効いたかもしれない  比較がない。

2. 実験室 細胞で動物で効いた・・・人間に効果があるかはわからない

実際に薬になるのは10000分の1

3. 観察研究:比較群なし 過去症例のカルテなどとの比較
4. 観察研究:比較群あり 治療をやった場合、やらない場合の比較研究

 例:食生活・運動習慣のアンケートをして、5年10年追って比較するなども含む

5. (非)ランダム化比較試験:人間を対象として状況介入して行う比較研究

食物繊維と大腸癌の関係 それだけでなく、他の要素(肉など)が関係しているかもしれない。状況に介入して、食物繊維を与える群、与えない群、肉食をする群、しない群などを設定して比較する。

 

出回って効くとされている医薬品は上の5を経ている。権威者の言葉でもどのデータに基づいているかによって信頼度は変わるので注意。

いずれにせよ、どのレベルのデータなのかを注意すべき。

 

宮台:ヴェーバーの教え「AがあったらBが起こった」だけでなく「AがなかったらBはなかった」を言えるかどうかいつも考えないといけない。

 

(4月3日追記

上の情報分類は医薬品や健康食品の情報の信憑性の話なので新型コロナとは少しずれる。いずれにせよ、コロナウイルスの性格にしろ、それに対する薬やワクチンにしろ4,5のような比較実験はまだなされていない。

「専門家」が話すのも1, 3のどちらかだが、わりと1も多いのではないかと思う。3は例えば別のコロナウイルスとの比較など。人口の60パーセントがかかるまでとまらないのでは・・・なども当然、比較検証などではなく、過去のウイルスとの比較などで言っている話だろう。

ちなみに、わりと説明がはしょられていたので4, 5の違いが十分理解できていない。5は対象を無作為抽出した場合と、特定の対象群の比較もするということかと思われる。コロナ例だと、熱が出ている人間の中でPCR検査をした場合の陽性率と、無作為にPCR検査をした場合の比較をして、例えば陽性率をどのように解釈するか、変わってくるとかそういう話か・・・(?))

番組後半

とはいえ、伝えられる情報がどのレベルの情報なのかの判断をいちいちするのは億劫。テレビなどでも根拠などいちいち言わない。なので、なかなか難しいが、上の分類を少し念頭において、判断すべし。

 

厚生省のコロナ対策について

神保さん厚生省の方針について紹介:医療対応ができなくなる事態を避けるために、流行のピークを遅らせる必要があるということで感染拡大防止につとめている。

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厚生省の対策モデル。

大野氏:この対策モデルが実際重要。肺炎患者の急増を避ける必要あり。病院は他の病気の患者も多く、パンクした場合の混乱を避ける必要がある。武漢にはその問題があった。感染者数が増えるのは避けられないだろうが、緩やかな増加にするための対処が必要。

 

神保:「早く感染すると終息が早くなるという一般論」を前提にすると、感染拡大緩和によって期間が長引いてオリンピックに響くのではないかと考えると、政府は英断したのかもしれない。

残る疑問:ウイルスは夏場に弱ると考えてよいかどうかまだ必ずしもわからない。

 

(4月3日追記:上の神保さんの「早く感染すると終息が早くなるという一般論」は、ワクチンなどがない場合は、多数の集団(50パーセントとか60パーセント)に免疫ができて、爆発的な感染の広がりが起こらない状況にいたってはじめて、大流行がおさまるという話と思われる。2月末時点では、こんなに長期化、深刻化するという危機感が薄く、2週間くらいで封じ込められるという楽観が世界的にあったように思う。オリンピック云々は、その雰囲気のなかでの発言)

政府の対策はそれとして、個々人はどうすべきか

大野氏:情報の受け止め方の心理的歪みを踏まえると、人間は不安の中で認知の歪みが起こりやすい。情報を伝えることは当然重要だが、情報発信者も受容者も、人間が間違った判断をする、特に今は間違った判断をしやすいかもしれないということを認識することが大事。自分が冷静に判断できる状況にあるか一歩立ち止まって判断するのがいい。

 

ウイルスと人間の関係一般

ウイルスは宿主を必要とするので、例えば宿主が全滅したらウイルスも消える。ウイルス的には適度に宿主が残らないと増殖・残存はない。

インフルエンザ・ウイルスの動き方

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一般的な動き。豚を経由して人間への感染力をもつらしい。中国発になるのは、中国での豚飼育方法や生肉食習慣からと考えられる。

・温暖化でこれから未知のウィルスが出てくる可能性あり

 

コロナウイルスは60年前くらいに発見。風邪の一部を占める。危険なタイプのウイルスのアウトブレイクSARS, MARSと今回の3回 

 

コロナウイルスの今後の展開について

大野氏は感染症学専門ではないという前提で一般的なことをいうと

・ウイルス撲滅に人間が成功したのは天然痘くらいで、インフルエンザやコロナとは共存、競争関係を保つ他ないだろう。

・新型コロナに関してはまだ未知の要素が大きいので、不安、パニックになりがちだが、冷静になることが大事

 

雑談とまとめ

神保・宮台:人間の不安が生み出す怪物にも注意 ポン・ジュノ監督の指摘も参照

・『パラサイト』監督ポン・ジュノの、怪獣映画『グエムル』も示唆的。人間の不安が生み出す怪物のほうが怖いのではないかという監督の指摘。

戒厳令的な押さえ込みがよいのかどうか?

 

「正しい」行動への固執にも注意 「間違い」を許さない空気の問題もある。

大野:「正しく恐れ、正しい判断をしましょう」とよく言われるが・・・「正しい」に問題があるのでは。

  →「正しい」と言うと、唯一の正解があるかのように響く。あるいは、間違った行動があるように響く。

「正確か」「不正確か」を人はある程度見極められるが、間違うことは当然ある。「間違っても良い」という心のゆとりをもつほうが息苦しさから解放される。

「これが正しい、日本全体こうしよう」は、人間の生み出す怪物になりうるので注意。

 

検査のできなさ、機能不全問題

宮台:「4日目に病院に来い」を絶対視しないほうがいい。重症化した患者が増えるより、早めに検査できたほうがいい。

神保:なぜ検査ができないのか?

大野:動ける感染症対策機関がないという問題。国立感染症センターには検査体制はなかった。

神保: 陰謀的に誰かが止めているのではなく、単に機能不全の可能性ということですね。 

宮台:インフラがないので動けないという問題なのに、動けない場合は陰謀論が生まれがちというメカニズムが興味深い。

 

(4月3日追記 検査の話は、ちょっとはしょって書いているので、少し補足。

今も検査数は劇的には増えていないが、すでに2月末から、日本検査数おさえて感染者隠している説があって、それをうけて神保さんが、PCR検査が日本少ない問題について話をふる。

 大野氏の回答:国立感染症センターには検査体制がなく、医療機関まかせになるという問題が、検査数の増えなさにつながっている。

 現行の法や医療体制では検査が増やせないというのが実情(4月現在もあまり進んでいない)。だが、動けない場合は、なんで動かないんだ、オリンピックに響かないように何か隠している違いないというような陰謀論が生まれてしまうという話。)